Ch.07
固有値と固有ベクトル:変換で変わらない中心軸
チャプター別 数学図
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固有値と固有ベクトル: 変わっても向きが残る軸
固有ベクトルは行列を掛けても同じ直線の上にとどまる向きです(長さだけが伸び縮み、場合により反転)。その直線上での伸び縮みの倍率が 固有値 です。
行列 / Matrix
固有値 / Eigenvalue
固有ベクトル / Eigenvector
茶色の丸は変換のルール。ミントの丸はその直線上の長さの倍率。赤い下線は等号の左右が同じ向きであることを示します。曲線矢印はラベルと式の対応を示します。
洗濯機で衣類が回る様子を想像してください。水は渦を巻き、布は絡み合い、動きの向きは折れ曲がります。行列が空間を変換するときも似ていて、多くのベクトルは元の直線から外れて向きが変わります。
それでも槽の中心の回転軸は、激しく回っても同じ直線の上にいます。数学でも同じ直線に留まり、長さだけが伸び縮みする方向が固有ベクトル、その倍率が固有値です。本章では、ごちゃごちゃ見えるデータの中からその安定した軸を見つけ、そこから整理して理解します。
固有値と固有ベクトル: 変わっても向きが残る軸
1. 固有ベクトル — 向きが折れない特別な矢印
行列は空間をねじる変換の機械だと考えてください。多くのベクトルは向きが変わりますが、もともとの直線の上にだけ残り、長さだけが変わる矢印が固有ベクトルです。要点の一行は —「掛けても同じ直線、長さだけ倍率」と覚えます。
2. 固有値 — その直線上での伸び縮み
固有ベクトルでは、変換のあと長さが何倍になるかが 固有値 です。1より大きければ伸び、0と1のあいだなら縮み、負なら同じ直線上で反対向きに見えます。
3. 特性方程式 — 固有値を求める定番の式
特性方程式を立てて候補を求めます。イメージは「候補を入れたときに空間がつぶれて、広がりの指標がゼロになるか」を見ることです。そのあと出てくる向きが固有ベクトルの候補です。
4. 対角化 — 絡み合いを軸ごとの倍率に
独立な固有方向が十分あれば、変換を軸ごとに数字だけを掛ける形に書き直せます。つまり「軸同士が混ざらず倍率だけ」と読みやすくなります。
5. トレースと行列式 — 二つの数でチェック
行列式 は、正方行列が線形変換で単位体積(2次元なら単位正方形の面積)を何倍にするかを表す一つの数です(Ch.05)。この章では「固有値の積が と等しい」ことを検算に使います。
固有値の和は対角成分の和(トレース)、積は行列式と一致します(重なりは重複として数えます)。2×2 ではこの二つで素早く検算しやすいです。
一行まとめ: — 固有ベクトルは同じ直線、固有値は長さの倍率。候補は特性方程式で求め、前章の行列式・独立と合わせて PCA・力学系につなげます。
固有値と固有ベクトルは、いろいろな方向が混ざっているときに「いちばん意味のある軸」を見つける手がかりになります。
次元がとても大きいデータでは、向きによって変化の大きさが違います。共分散行列の固有ベクトルは「データがいちばん広がる方向」を示し、固有値はその広がりの大きさを表します。
同じ行列を何度も掛けるようなモデル(天気・市場・ランキングなど)では、固有値を見るだけでも発散するか・消えるか・落ち着くかの雰囲気をつかみやすくなります。
1. PCA と次元圧縮(大事な向きを探す)
顔写真のようにピクセルが多くても、全部が同じ重要度ではありません。 共分散行列の固有ベクトルを使うと、最大固有値の向きが目や輪郭など「よく動く部分」に近いことが多く、少数の向きだけ残して次元を小さくできます。
2. PageRank — リンクと安定スコア
ページ同士のリンクから行列を作り、「ランダムにクリックし続けたらどこに集まるか」を求めると、大づかみに安定したスコアの形(同じルールをもう一度かけても変わらない)を求めるのと同じ型です。
3. 深層学習と安定性(勾配の暴れ)
RNN のように同じ変換を何度も繰り返すと、固有値の大きさが1より十分大きいと値が暴れ、みな1より小さいと消えていく恐れがあります。学習が続くよう1の近くに収める工夫が大切です。
本章の軸は です。固有ベクトルは変換のあとも同じ直線、固有値はその長さの倍率です。値は特性方程式で求め、必要なら 相似・対角化・トレース・行列式 で性質を確認します。
- 言葉固有の組
- 意味同じ直線の上で長さだけが変わる()
- 言葉特性方程式
- 意味固有値の候補を出す定番の一行
- 言葉向きの求め方
- 意味候補が決まったら「引き算した形」の連立方程式で向きを取る
- 言葉幾何/代数の重なり
- 意味実際の向きの次元 vs 方程式で何回重なるか
- 言葉対角化
- 意味独立な固有方向が十分あるとき、軸ごとの倍率だけに書ける
- 言葉
- 意味単位体積·面積の倍率(Ch.05);固有値の積と一致して検算
- 言葉トレース・行列式
- 意味固有値の和と積を手早く見る二つの数
| 言葉 | 意味 |
|---|---|
| 固有の組 | 同じ直線の上で長さだけが変わる() |
| 特性方程式 | 固有値の候補を出す定番の一行 |
| 向きの求め方 | 候補が決まったら「引き算した形」の連立方程式で向きを取る |
| 幾何/代数の重なり | 実際の向きの次元 vs 方程式で何回重なるか |
| 対角化 | 独立な固有方向が十分あるとき、軸ごとの倍率だけに書ける |
| 単位体積·面積の倍率(Ch.05);固有値の積と一致して検算 | |
| トレース・行列式 | 固有値の和と積を手早く見る二つの数 |
① 2×2 は和・積の検算がよく使われます。
② 上三角·対角は対角の数字が固有値。
③ 相似なら固有値のかたまりは同じ。
④ 違う固有値の固有ベクトルは独立です。
例
例1 定義 「同じ直線」の倍率と向きを何という? → 固有値と固有ベクトル。
例2 正誤 相似な行列は特性多項式が等しい。→ 正。
例3 対角 対角が 3 と 2 の2×2行列の固有値は? → 3と2。
例4 繰り返し 倍率がλのとき同じ変換を三回すると? → λを三回かけた倍率。
例5 和·積 固有値が 1 と 4 ならトレースと行列式は? → 和5・積4。
例6 PCA 共分散で最大の固有値の向きは? → 分散が最大の主方向。
演習
で ( 軸に関する鏡映)の固有値は?
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