みんなのAI
機械学習AI論文
読み込み中…

学ぶ

🏅マイ実績

Ch.05

逆行列と行列式:変換の逆演算と空間の体積変化

チャプター別 数学図

チャプターを選ぶと、下の図がそのチャプターの内容に切り替わります。中級数学の流れを一覧で確認できます。

行列式の一つの数字で、面積が何倍かと、図が鏡のように裏返ったかが分かります

青は最初の正方形、赤は押し出された傾いた四角形です。点線は同じ角どうしを結びます

二つのパネルが同じリズムで動きます。格子が傾いて引き伸ばされるほど、赤い形の面積の倍率と、角を巡る向きの反転が一緒に変わります

PP′PP′
行列式は単位マスが赤い平行四辺形になるときの 面積の倍率(絶対値) と 向きが鏡のように反転したか(符号) を一つの数にまとめます。左は面積だけ広がり、角を巡る向きはそのまま(正)。
右も同じ考え方で、 面積比 は似ていても角を巡る向きが逆なので 符号は負 です。
スマホの写真編集で拡大・回転・傾きを変えるとき、内部では行列を掛けて空間に触れていると考えて差し支えありません。Ch.04が粘土や生地をこねる規則だったとすれば、本章は二つの問いです。一つ目、一度つぶしたあと元の角度と比率に完全復元できるか——それが逆行列。二つ目、面や体積が何倍になったか——それが行列式です。教科の計算を超え、学習や数値で情報が壊れていないかを見る最も基礎的な文法でもあります。

逆行列と行列式: 巻き戻しと面積の秘密

1. 逆行列: 魔法の巻き戻しボタン
行列 AAA が空間を傾けたなら、逆行列 A−1A^{-1}A−1 はその変化を正確に逆走して元の状態へ戻す装置です。心臓部は AA−1=A−1A=IAA^{-1}=A^{-1}A=IAA−1=A−1A=I。III は単位行列で、数字の 1 のように何も変えない状態を表します。
ただしすべてが戻せるわけではありません。3次元の粘土を踏んで薄い板に潰したら、もともと球だったのか星だったのか分かりません。点が重なったり潰れたりして情報が消えれば逆行列は存在しません。
2. 行列式: 面積の変化を測る目盛り
行列式 det⁡(A)\det(A)det(A) は、変換のあと元の図形の面積(体積)が何倍かを示す倍率です。基本の 2×22\times22×2 では det⁡(A)=ad−bc\det(A)=ad-bcdet(A)=ad−bc — 対角同士を掛けて引き算するだけの短い式です。
- 大きさ: 333 なら面積3倍、0.50.50.5 なら半分。
- 符号: 負(例: −2-2−2)は大きさは2倍だが、空間が鏡のように前後反転した合図。
- 0: 面積が0 — 平面が線や点に潰れたので逆は作れません。
3. 手計算で使う 2×2 パターン
ad−bcad-bcad−bc を指に覚えておけば十分です。0でないとき逆があり、0 のとき二列は一直線 — 典型的な特異です。大きな逆行列の表はチートシートに任せ、対角交換・符号反転のリズムだけ身につけましょう。
4. 積の逆: 靴下と靴の法則
変換を続けるのが積 ABABAB です。まとめて戻す逆は (AB)−1=B−1A−1(AB)^{-1}=B^{-1}A^{-1}(AB)−1=B−1A−1 — 順序が逆になります。朝は靴下(BBB)を先に、靴(AAA)を後に。家では後から履いた靴から脱ぎ、次に靴下です。行列も最後に掛けたものからはがします。面積倍率は各段の倍率を掛け算した感覚(Ch.04の合成)です。
5. 特異と『潰れたサンドイッチ』
det⁡=0\det=0det=0 は情報が線や面に押しつぶされる状態です。潰したサンドイッチから層を復元できないように、解が無数やゼロになり学習が迷子になり得ます。そのときリッジや疑似逆で近似の巻き戻しをします(Ch.06)。
一行: 完全巻き戻しは情報が一本の線に潰れないときに可能で、行列式はどれだけ広がったか(絶対値)と裏返ったか(符号)を伝えます。後から掛けた変換から先に戻すクセだけでも、以降の実装読解が楽になります。
深層学習は層を積むほど線形変換が連鎖するタワーのようなものです。逆があるかは一度に答えが一意か、行列式が0に近いかは空間が潰れて情報が混ざったかを見る信号機に近いです。逆が壊れると更新方向が分岐したり消えたりして学習が不安定になりやすい。行列式は各段で体積が何倍になったか(絶対値)と向きが反転したか(符号)を教え、データが層の間であまり失われず通るかを直感で確かめられます。
式は違っても繰り返し聞くのは三つです。戻せるか・体積は何倍か・鏡のように裏返ったか。 線形回帰の係数、学習中のヘッセ(損失をパラメータで二回微分した行列で、どの方向が急坂でどの方向が平坦かをまとめる)がほぼ特異だと一部方向が極端に平坦になりステップが不安定になりやすいこと、座標を変える生成系の体積補正(行列式・ヤコビアン)まで同じ絵でつながります。
古典ML・線形モデル: 最小二乗では (XTX)−1(X^{\mathsf T}X)^{-1}(XTX)−1 のような逆が要ります。特徴が似すぎると行列式が0付近になり逆が作れず数値が爆発します。リッジは対角に小さな λ\lambdaλ を足して (XTX+λI)−1(X^{\mathsf T}X+\lambda I)^{-1}(XTX+λI)−1 にし、逃げ道を作る安全装置です。
深層学習・生成: 層ごとに線形変換が掛かるので、途中で空間が一本に潰れると情報が混ざり逆方向が難しくなります。ヘッセは損失曲面の曲がり方(どの方向が急でどの方向がほぼ平坦か)を表し、ほぼ特異だと更新が不安定になりやすいです。正規化フローのように座標を変えて密度を書くときは、体積が何倍になるかを行列式(ヤコビアン)で揃えないと値が合いません。
水一杯の例: 同じ量の水を広い皿に広げると受けた面積は増えるのに、水の深さ(単位面積あたりの量)は薄くなります。確率密度も座標を伸ばすと同様に ∣det⁡(A)∣\lvert\det(A)\rvert∣det(A)∣ で補わないと整合しません。画像などを別の座標に送る一部の生成・変換パイプラインでも同じ発想があります。幾何: 絶対値は体積倍率、符号は反転。数値: 条件が悪いと誤差が増幅されます。
下の表に逆行列・行列式でよく出る記号と規則をまとめました。例題は演習問題バンクの代表タイプ(定義・真偽・計算・概念・余因子展開・応用シナリオ)に沿い、他章と同じ問題 / 解答の形にしています。
  • 記号A−1A^{-1}A−1
  • 意味逆行列。AA−1=A−1A=IAA^{-1}=A^{-1}A=IAA−1=A−1A=I を満たす
  • 記号det⁡(A)\det(A)det(A)
  • 意味面積・体積が何倍か(絶対値)。符号は空間の向き反転
  • 記号det⁡(AB)\det(AB)det(AB)
  • 意味det⁡(A)det⁡(B)\det(A)\det(B)det(A)det(B)
  • 記号(AB)−1(AB)^{-1}(AB)−1
  • 意味B−1A−1B^{-1}A^{-1}B−1A−1 (合成の巻き戻しは逆順)
  • 記号特異(singular)
  • 意味det⁡(A)=0\det(A)=0det(A)=0。真の A−1A^{-1}A−1 はない
  • 記号κ(A)\kappa(A)κ(A)
  • 意味条件数。逆があっても解が敏感になり得る
記号意味
A−1A^{-1}A−1逆行列。AA−1=A−1A=IAA^{-1}=A^{-1}A=IAA−1=A−1A=I を満たす
det⁡(A)\det(A)det(A)面積・体積が何倍か(絶対値)。符号は空間の向き反転
det⁡(AB)\det(AB)det(AB)det⁡(A)det⁡(B)\det(A)\det(B)det(A)det(B)
(AB)−1(AB)^{-1}(AB)−1B−1A−1B^{-1}A^{-1}B−1A−1 (合成の巻き戻しは逆順)
特異(singular)det⁡(A)=0\det(A)=0det(A)=0。真の A−1A^{-1}A−1 はない
κ(A)\kappa(A)κ(A)条件数。逆があっても解が敏感になり得る
項目別の補足
① 潰れ まず det⁡(A)=0\det(A)=0det(A)=0 か、列が1本の直線上(共線)かを見る。
② 2×22\times22×2 ad−bcad-bcad−bc と、逆の対角入替・符号反転・1/det⁡1/\det1/detだけ体に覚えさせる。
③ 順序 (AB)−1(AB)^{-1}(AB)−1 は逆順、det⁡(AB)\det(AB)det(AB) は積—別ルールと混同しない。
④ 数値 可能なら A−1A^{-1}A−1 を明示的に作るより 線形方程式を解く(最小二乗・`solve` など)の方が安定しやすい。

例題

例1 — 行列式の計算(定義・計算タイプ)
問題: A=(21−13)A=\begin{pmatrix}2&1\\-1&3\end{pmatrix}A=(2−1​13​) のとき det⁡(A)\det(A)det(A) は?
解答: ad−bc=2⋅3−1⋅(−1)=7ad-bc=2\cdot 3-1\cdot(-1)=7ad−bc=2⋅3−1⋅(−1)=7.

例2 — 可逆かどうか(定義・真偽タイプ)
問題: 例1の AAA は可逆か?
解答: det⁡(A)=7≠0\det(A)=7\neq 0det(A)=7=0 なので可逆(逆行列が存在する)。

例3 — 積の逆(概念・Ch.04 合成タイプ)
問題: 可逆な正方行列 A,BA,BA,B に対し (AB)−1(AB)^{-1}(AB)−1 は?
解答: 合成を戻すとき後から掛けた写像から外すので B−1A−1B^{-1}A^{-1}B−1A−1。

例4 — 積の行列式(定義・計算タイプ)
問題: 同サイズの正方行列 A,BA,BA,B について det⁡(AB)\det(AB)det(AB) は?
解答: det⁡(A)det⁡(B)\det(A)\det(B)det(A)det(B) (面積・体積の倍率は写像をつなぐと掛け算)。

例5 — 2×22\times22×2 逆行列の手計算(計算タイプ)
問題: det⁡(A)=7\det(A)=7det(A)=7 の 2×22\times22×2 行列の逆を手で書くには?
解答: 前に 17\dfrac{1}{7}71​ を置き、対角成分を入れ替え、非対角の符号を反転する型を当てはめる。

演習問題

2×22\times 22×2 行列 AAA に対し det⁡(2A)\det(2A)det(2A) は?(「222 倍」は全成分に掛ける)
1 / 10